2010年夏から恒例となったサンライズフェスティバルが今年も開催! 8月17日(土)は新宿ピカデリーにて「宇宙世紀のガンダムを語る-ΖΖからUCへ-」と題したトークショー&上映会が行なわれた。
トークショーではアニメ評論家の藤津亮太さんを司会進行に、まずは『ガンダムUC』でストーリーを担当する福井晴敏さんとプロデューサーの小形尚弘さんが登壇。『ガンダムUC』に『ガンダムΖΖ』の設定やMSが随所に見受けられるのはなぜか? 福井さんはそれほど『ガンダムΖΖ』が好きなのか?といった話題や、一部のファンが『ガンダムΖΖ』を拒絶してしまう理由について、福井さんの解釈が披露されていった。
福井: | ほかのガンダム作品と『ガンダムΖΖ』で何がいちばん違うかというと、両親との対決の有無なんです。アムロやカミーユ、バナージにしても親との関係をどう精算して社会に出ていくかというプロセスが必ず描かれる。『ガンダムΖΖ』というのはそこが完全にオミットされている。主人公の葛藤が全排除されているんだよね。 そこがたぶんほかの作品と比べて、視聴者には圧倒的に食い足りないところだと思うんだけど。逆にそれくらい主人公の内面に踏み込まず後退させる感じにしないと、オモチャを売るために主役ガンダムの合体を見せつつ、アクシズ(ネオ・ジオン)の後始末をつけるのは一年の放送では消化しきれなかったかも知れない。 |
藤津: | 主人公のジュドーはカミーユとは違って、陰から大人たちに守られて戦っていた気がしますね。 ブライトは《ネェル・アーガマ》を降りて、ジュドーたちが戦えるように防波堤の役目を果たしていたし、最後はわざわざジュドーの怒りを受け止めるために殴られてもやった。 ジュドーは守られているおかげで、カミーユみたいにはならないんだよというニュアンスをすごく感じたんです。 |
ちなみに福井さんは『ガンダムΖΖ』の本放送時は高校3年生だったこともあり、リアルタイムでは見ていなかったそうで、『ガンダムUC』の小説連載を始めるにあたり、まとめて見ることになったとか。福井さんは初めて『ガンダムΖΖ』を見て、『ガンダムΖΖ』が嫌いな人が言うほど悪くなかったという感想をもったそうだ。
福井: | よかったのはプルまわりのエピソード。最初、プルがお風呂から飛び出して『プルプルプルプル~』と駆け出すのを見たときは、絶句してくじけそうになった瞬間はあったんだけど(笑)、プルツーが出てきて明らかに作品が次のステージへ移った。 “強化人間”という、人間の命の根幹の部分を人間がいじってしまう狂気を、『Ζガンダム』ではフォウやロザミアのエピソードで描こうとしつつも消化しきれてなかった。それを『ガンダムΖΖ』で再チャレンジしようというのが見られた。 そういう意味で『ガンダムΖΖ』は単体で判断するのではなくて、『Ζガンダム』という常軌を逸したアニメの後始末をする作品として見ると、すべてがわかる。こうするしかなかったろうなとさえ思える。 |
小形: | 富野さんはいつも何かにカウンターを当てながら作品をつくるのが得意なんです。 『ガンダムΖΖ』の前半は『Ζガンダム』に自分でカウンターを当てていっているから、あういうつくりをしているのかなと。 |
福井: | 富野さんの中では『ガンダムZZ』前半の仮想敵は『Ζガンダム』なんだよね。 |
小形: | ちなみに『ガンダムUC』のマリーダは、プル、プルツーと同じ強化人間で“プル・シリーズ”じゃないですか。それは『ガンダムΖΖ』を見ているときに、『ガンダムUC』に取り入れようと思ったんですか? |
福井: | 大人になって見た中でいちばん最近だったのが『ガンダムΖΖ』で、そのぶん印象に残っていたからかもしれない(笑)。 でもそれだけじゃなくて、『Ζガンダム』『ガンダムΖΖ』で富野さんから提示されたものに対して、見てきた俺たちが自分たちなりの解答を返していくのが今回の『ガンダムUC』での根幹でもあるので。そういう意味では“強化人間”というテーマは、やっぱり一度は触れておきたいと自分の中では強くあった。それがマリーダとジンネマン、そしてバナージのエピソードに到着したという感じですね。 |
トークも中盤を迎えたころ、サンライズ代表取締役社長・内田健二さんがステージへ。内田社長は、『Ζガンダム』、『ガンダムΖΖ』、『逆襲のシャア』などのプロデューサーを当時務めていた。『Ζガンダム』がプロデューサーとして初めての作品となり、続いて『ガンダムΖΖ』も続投することになった内田社長は当時を振り返り、次のように語った。
内田: | 当時は30歳くらいで初めてプロデューサーになって、モチベーションが高くなっていて、苦労を凌駕してしまうほど充実していたという記憶がありますね。 ただ、当時はまだ昨今のガンダムのように作品づくりの道筋ができていたわけではないので、どれが正解かわからないまま模索していたころでもありました。 |
小形: | 当時、制作サイドで関わっていた方々は、今では一流の監督、クリエイターとして活躍されていて、皆さん、富野監督には畏敬の念をもって接してらっしゃるんですよね。 |
内田: | 一年4クールのロボットアニメをずっと同じ時間帯でつくりつづけられる。新人の演出家にとってそれは、いろんなトライアンドエラーができる“実験場”でもありました。 みんな優れた監督に育っていって、『機動武闘伝Gガンダム』の今川君や『エルドラン・シリーズ』の川瀬君、『銀魂』の高松君、『天空のエスカフローネ』の赤根君らですね。みんな今も一線級の監督として活躍しています。 あと、当時は大人の鑑賞にも堪える作品が次々に生まれていて。同じロボットアニメの『超時空要塞マクロス』や『トランスフォーマー』もそうなんですけど、ガイナックスの『王立宇宙軍 オネアミスの翼』や宮崎駿さんの『ナウシカ』もこのころですよね。 私にとってもそうですけれども、富野監督にとっては年齢に関係なくライバルの作品として非常に気にしていて、それを発憤材料にしながら作品をつくっていました。 |
ほかにも『Ζガンダム』制作途中で急きょ続編が決まった際の話や、メカデザイナーに内田さんみずから声をかえてMSのデザインをオファーしていったことなど、当時の混沌としながらも熱気あふれる制作現場のようすが語られていった。最後に『Ζガンダム』『ガンダムΖΖ』が果たした役割というのは何だったのか?という問いが内田社長に投げかけられた。
内田: | 『Ζガンダム』『ガンダムΖΖ』をつくっておくことがもしなかったら、“ガンダム”というブランドが消滅していたかも知れない可能性がある。80年代にライバルのロボットものが群雄割拠する中で、2年間放送したということが、現在につながっているのかなと、今にしてそう思えますね。 |
トークショー、プレゼント抽選会に続いて、『ガンダムΖΖ』から福井さんみずからセレクションした8話と、『ガンダムUC』episode 3の上映が行なわれ、宇宙世紀を堪能する楽しいイベントは幕を閉じた。
今日改めて社長の話を聞いて、『ガンダムUC』をつくらせていただけるのも、諸先輩方がいろいろご苦労されてつくってきた歴史を土台にしてなんとか成り立っているのだと再実感しました。『ガンダムUC』は来年春に最終話を迎えるために今、鋭意制作中です。皆さんに広げていただいたガンダムの世界により深みをもたせることができるような、episode 7にしたいと思っております。
来年はぜひよろしくお願いします(小形)
来年はぜひよろしくお願いします(小形)
ファーストガンダムと『Zガンダム』、『ガンダムZZ』がシリーズとして3本つくられて、しかも当時は子供向けに放送していたなんて、これは諸外国から見たら本当にむちゃくちゃなことなんです。でもそれができたということ、商品を売るための番組だからといって、富野さんや内田社長たちが力を抜かずに作品として取り組んでいったことが今、財産となって残っている。我々も頑張らなければと改めて思いました(福井)
今日、こういう話を聞いていただいたうえで、27年の時を超えて2つの作品にいっそうのつながりを感じながら見ていただければ幸いだなと思います。サンライズの社長としては、皆さんのオーダーに応える作品もつくっていくのはもちろんですが、それを超えてチャレンジしていくような作品、ガンダム以外にもたくさんいい作品、ヒット作をつくっていきます。変わらずのご支援をよろしくお願いします。今日は本当にありがとうございました(内田)
現在は社長の内田さんも当時は新米プロデューサーだった。『Zガンダム』の続編をオファーされたとき、自分ではなかなかスポンサーや会社に強く出られないので、富野監督に断ってもらおうと思ったそうだ。富野監督に相談すると、しばらく考えた後「じゃあやろう! 提案があるんだったらやろうよ」と言われて制作が決まったというエピソードも。
(ガンダムインフォ編集部)
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