東京・上野の森美術館で開かれている「メカニックデザイナー 大河原邦男展」。その開催を記念して、大河原邦男氏とデザイナー永野 護氏を迎えてのトークショーが8月29日(土)に行われた。
東京都美術館講堂を会場に、司会進行をアニメーション研究家・五十嵐浩司氏が務め、トークは大河原氏と永野氏が参加した作品のエピソードから始まった。
毎日上がってくるデザイン画が教科書だった
大河原:『銀河漂流バイファム』(TV/1983年)のメカデザインを、私がメインでやってまして、永野さんにもお手伝いをいただいたのが最初かなと思います。
永野:そこで先輩・後輩の関係ができてしまいまして。大河原さんには、もう頭が上がらないですね(笑)。
大河原:ただ私、自宅で仕事をしていたので、スタジオにあまり出入りしていなかったのもあって、残念ながらスタッフと濃密な付き合いはあまりなかったんです。
五十嵐:永野さんが『バイファム』のスタジオに入ることになったきっかけをお聞かせください。
永野:僕が大学5年生のときに、『伝説巨神イデオン』(TV・映画/1980年)の映画化を記念したイベントがあって、その運営に参加していた知り合いがいて、その彼から「サンライズが新人デザイナーを募集している。お前も参加してみないか」って言われて。僕は『スペース1999』(SF特撮TVドラマ/1974年)や、戦車、戦闘機が大好きな人間だったので、そういうものを描いて出したんです。
当時はバンドを組んで新宿とかいろんなところでライブをやってまして。で、面接にもベースを背負って、靴底が15cmもあるロンドンブーツを履いていったんです。長髪で靴のせいで身長が190cm近くある僕を見て『使いものになりそうにないけど、オモロイんで雇おうか』みたいなこと言われてね(笑)。冗談みたいな本当の話なんですけど。1983年3月から新しくできた第3スタジオにとりあえず入ることになって。
そこは『バイファム』を制作していて、今のサンライズとは毛色の違う人たちばっかりで。神田武幸監督の隣に僕がいて、その隣にキャラクターデザインの芦田豊雄さんが座っていて。2人のやりとりが僕の前で日に何度も往復しているわけですよね。そこに大河原さんのデザイン画が毎日上がってくるんですよ。こんなに描くの?って。僕が見たのは50枚以上だった気がするんですけど、すさまじい数でしたよね。
大河原:そのころ作品を同時に3本くらい抱えてたこともあって、『バイファム』はかなり手抜きをしていたんですけど、今思い出すと、すごくいい作品に仕上がったなと思いますね。
永野:作品は内容も素晴らしかったですけど、バイファムをはじめ〈ラウンドバーニアン〉っていうロボットのデザインが今までの大河原ラインとは、ちょっと違っていた。
▲大河原邦男氏(左)と永野 護氏(右)。
大河原:あの当時はですね、ひとつ前の作品の反省をワンポイント、次の作品に反映させていたんです。『バイファム』は宇宙が舞台で、宇宙が舞台のロボットのイメージとして誰もが答えるのがバーニアだった。
実際には無重力空間での姿勢制御は、推進剤を少しペッと噴くだけでいいわけです。そうすると機体のどこかに穴を空けておけば機能的には事足りるんです。けれど私としては作品を子供に見てもらうのが前提だったので、ただ穴が空いているよりかは、大きなバーニアが機体のあちこちにあって、そこから推進剤を噴射して姿勢を制御する。それをデザインのひとつのポイントとして扱おう、と。
それでできあがったのがバイファム、ネオファム、ディルファムの3体。デザイン的には詰め切れていなかったんですけど、バーニアがひとつの特徴にはなったのかな、とは思います。
永野:大河原さんと神田監督がメカデザインのやりとりをされているころに、神田監督が大河原さんのデザイン画を全部見せてくれたんです。で、神田監督は逐一「なんでこういうデザインになっているかわかるか?」って僕に教えてくれたんですよね。たとえばウグの決定稿を見せながらて、「ウグって特徴的な顔でしょ。爆撃機の風防なんだよ」と。あっ本当だと思って。
大河原:敵の戦闘用ロボットですから、なんとなくでもミリタリズムを感じさせるデザインのほうがよいかなと思って。私は1947年生まれなんで、ミリタリーに関するものが身の周りにけっこうあったものですから、そういうところをヒントとしてデザインに入れ込んでみる。そうするとけっこう楽なんですよ。どこかで見たことがあるものが付いていると。
永野:神田監督も同じことを言うんです。「どこかで見たことのあるパーツを入れるとキャラクターが立ってくるんだよ」って。そのときまだ本当に何もわかってなくて、なるほど、でたらめにデザインしちゃダメなんだって。大河原さんとは何回もお会いできる機会はなかったんですけど、毎日スタジオにやってくるバイファムの設定画を通して、大河原さんにいろいろ教わってましたね。
ガンダムとザクのデザインがすごいところとは?
話題は大河原氏が手がけるメカニカルデザインへ移り、大河原デザインのすごさが永野氏から語られていった。
永野:ザクとガンダムのデザインがどれくらいすごいかっていうのは、一般の方にはわからないと思うんですね。僕は当時、自分なりに気がついたんですけど、ガンダムが出るまでのロボットっていうのは、実は頭だけ変えて、胴体は同じデザインだった。足はこれ、手はこれ、指はこれってフォーマットが全部決まっていて、フォーマットのデザインを入れ替えて、ちょっと形を変えるだけだった。ところがガンダムのデザインは今までのロボットの流用ではなかった。頭の上からつま先まで全部、ガンダムために考えられた新しいデザインだったんですよ。
大河原:当時のサンライズさんはまだ小さくて、オモチャを売らないとなかなか制作ができない会社だった。『無敵超人ザンボット3』(TV/1977年)でスポンサーが付いて、『無敵鋼人ダイターン3』(TV/1978年)でもスポンサーを確保できた。その2作を手がけた富野由悠季監督としては3作目ということもあって、「将来、地球が辿る運命みたいなものを先取りした、本格的な作品を作りたい」っていう意欲があった。お話としてはかなりハイレベルなドラマをめざしつつも、本来のターゲットである子供たちにはオモチャを買ってもらわなきゃならないわけですよ。
はじめは安彦良和さんが今で言うところのガンキャノンをベースにした主役ロボを提案されて、私は宇宙服をモチーフにデザインした主役ロボを提案したんですね。それでもインパクトに欠けるということで、私が提案したデザインをもっと人間っぽくして、アニメーション・ディレクターでもあった安彦さんの手が入って今のガンダムが生まれたんです。けどザクに対しては、当時は敵メカはオモチャにならないので富野監督と僕と2人で自由にできた。富野監督がモノアイにすごくこだわっていて、それ以外は好きにしていいと。それを聞いたとき「しめた!」って思って。それまで主役ロボのオモチャにずいぶん苦労をしていたので、主役ロボよりもカッコイイ敵メカを作ろう!と張り切ってデザインしたのがザクで、ドイツ軍のイメージが活かされてます。動力パイプがいろんなところから出ているのは、兵器としてはおかしいでしょ? だけどパイプがあるのとないのではインパクトが相当違うんですよ。だから、ザクができてはじめて連邦軍とジオン軍を合わせた作品全体のデザインコンセプトが完成したのかなって思っています。
で、グフ、ドムをデザインしていくと、今度は富野監督が乗りに乗ってきて、次々にラフが来るんですよ(笑)。それまでラフが来ることはなかったんですけど。私も4作品の仕事を同時にやってましたので、早く終わらせたかった。富野監督ってしつこいから、こっちからアイデアを出すと、今度は2倍になって帰ってくる(笑)。そうなると、やっぱり監督の意向どおりにデザインしたほうが楽なんですよね。
永野:後で知ったんですけど、そのころ富野さんってすごく乗っていたみたいで、僕の時代になると、富野さんに「なんかアイデアありますか?」って聞くと、「僕はもう『ガンダム』でスッカラカンになったから何もないよ」って(笑)。
大河原:いやいや、富野監督の感性って永野さんにすごくあっているので、多分、全部お任せだったと思うんですけどね。私は富野監督とデザインに対しての考え方が違うので、最後までラフが来ましたね(笑)。
永野:そうは言っても、けっこうあの人は出してきますよね、ソロっとこう(笑)。
大河原:だから連邦軍とジオン軍の境目がどんどんなくなっていく気がしたのは覚えてますね。
永野:今の人たちはみんなザクありき、ガンダムありきでやってるんで、あんまり目新しさというか、ザクのデザインのすごさにピンとこない人が多いんですよね。それまでのロボットアニメだと、毎週違う敵メカが出てくるじゃないですか。それが『ガンダム』だと第12話にグフが出てくるまで、ザクしか出てきていない。バリエーションも赤と緑、あとは旧ザクくらいしかないという設定で1クールをもたせちゃうのは、富野さんの演出はやっぱりすさまじいですよね。
大河原:その辺はすばらしい人ですよ。
永野:でも考えてみると、ガンダムもザクもすごく強力なキャラクターだったから、それができたっていうことですよね。
メカニカルデザイナーの醍醐味とは?
五十嵐:今回、メカニカルデザイナーのお二人にお伺いしたいことがあって。メカニカルデザイナーは、ロボットを描くお仕事ではないっていうのが強くあって。ロボットをキャラクターとして描いているということですよね。キャラクター造形についてお聞きしたいなと。
大河原:私が担当する作品は、マーチャンダイジングの対象は超合金だったりプラモデルといったオモチャが主だったんです。そうするとただのメカではダメなので、存在感、キャラクターライズがいちばん大事になってくる。その当時はセルアニメだから、全部マンパワーで動かしていて、デザインが魅力的でないとそれを描くアニメーターもおもしろくない。現在はメカは3DCGで表現されるケースが多くて、アニメーターが動かさないことの弊害がすごく出てきている面がある。キャラクターライズすることをちょっと忘れているんじゃないかな。
『装甲騎兵ボトムズ』(TV/1983年)という作品ですと、私がメカから小道具まですべてデザインしています。それはひとつの作品の中で統一されたコンセプトを表現できるチャンスでもある。そういうコンセプトワークを発信できることが我々メカニカルデザイナーにはいちばん醍醐味があって、楽しいことなんです。現在ですと、デザイナーもチームを組んでアニメーションを作っていくので、乗り物はどなた、ロボットはどなた、小道具はどなた……となっていくと、どうしても情熱がね。
永野:最近のゲームも全部そうなんですけど、たくさんの人が関われば関わるほど、キャラクター性って失われるんですね。デザインもぼんやりとしたものになる。イメージが残らない。そういう意味でもロボットがキャラクターであるっていうのは、間違いのないところで。メカを作ろうっていうのじゃなくて、生みだす感覚に近い。
五十嵐:メカニカルデザインに対する考え方のひとつに、作品世界の文化を作ってらっしゃるんじゃないかと思うんですね、メカニカルデザイナーは。
永野:ロボットっていうのは、最も強力なんですよ、SFアニメの中でも。作品のあらゆるものが、象徴されるロボットに合わせた世界観に作り変えられている。演出も脚本も監督さえも、みんな引っ張られている。『ガンダム』も『ヤッターマン』もそうですし、人気キャラクターが見ている人たちに共感・感動させることによって、ドラマが盛り上がる。ロボットアニメが作品のすべてを引っ張る。だから、ロボットに合わせてすべてが作られるのは、ごく当然のことだと思うんですね。
五十嵐:永野さんの場合だと『重戦機エルガイム』(TV/1984年)だったりするわけですね。主人公のヒーローではなく、あくまでロボットが中心。
大河原:『エルガイム』は全部やられたんですよね。やっぱり自分の作品と思えるもののひとつですよね。
永野:そうですね。『エルガイム』はほとんどのセクションやりましたからね。メカ、キャラ、原画とか、いろんなことやらせてもらいましたね。
大河原:私はメカだけだから、そこまでやれるってのは、すばらしい。
トークショーでは、ほかにも現実のリアルと作品内でのリアルの差をメカニカルデザインではどう意識しているのかという質問に、大河原氏は「現実のメカをアニメ化しても、子供にはなんの楽しみもないと思うので、子供たちが驚くようなメカをデザインすることが大事」とコメント。さらに大河原氏は「私たちデザイナーが作っているのは架空のメカやロボットだけれども、見てくれた子供たちが将来、本物を作りたくなるような〈種〉を頭の中に植え付けるのがいちばん大事なんじゃないのかなって思っています」と続けていた。
今日の世界では二足歩行ロボットが現実味を帯びてきているし、アニメに出てきそうな双腕の重機も登場している。これらは設計者や技術者が子供のころに見たロボットアニメが製作のヒントになっているのではないだろうか。
また第一線で活躍するデザイナーは知識が豊富で、デザイナーをめざす若い人たちもアニメ以外の勉強が必要なのでは?という問いに、永野氏は「デザイナーって感性ですよね。デザイナーは絵描きでもなければ、絵を描くのが商売でもなない。デザイナーはモノを作る、モノを形づくることに特化した人間だと言えると思うんですよ」と答えていた。ロボットがうまく描けるのと、デザインができるのはまったく別の才能で、デザイナーは〈無〉から〈形〉を生みだしていく。表現するためには絵のテクニックや知識ももちろん必要になってくるが、それは付随するものであってまずはデザインありきという、現役のデザイナーならではの捉え方を語ってくれた。
話題は尽きなかったが、最後に「デザイナーのゴールは?」という質問に、「死ぬまでメカデザイナーでいたい」(大河原)、「ゴールのない仕事ですよ」(永野)と答えてトークショーは幕を閉じた。
(ガンダムインフォ編集部)
メカニックデザイナー 大河原邦男展
[開催日程] 2015年8月8日(土)~ 9月27日(日)
[開館時間] 月~木 10:00~17:00(9/4・11・19~27は19:00まで) ※入館は閉館の30分前まで
[当日券] 一般1,500円/高大生1,200円/小中生500円
[会場] 上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)
[開催日程] 2015年8月8日(土)~ 9月27日(日)
[開館時間] 月~木 10:00~17:00(9/4・11・19~27は19:00まで) ※入館は閉館の30分前まで
[当日券] 一般1,500円/高大生1,200円/小中生500円
[会場] 上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)
CLASSIFICHE
POST CONSIGLIATI
Abilita i cookie per visualizzare gli articoli raccomandati